「何故Webサイトを作るのか?」の具体例を考える「業種別にみるWebサイトで集客するべき必然性」、ここまで5回に渡って個人事業主や小規模事業者を中心にした話をしてきましたが、最後に企業のWebサイト、というかマーケティングについて考えていきたいと思います。
小規模事業者と企業の違い
企業と言ってもBtoB・BtoB問わず様々な業種業態があり規模も様々ですが、基本的な部分はこれまで説明してきた小規模事業者の考え方と変わりはありません。小規模事業者との違いは「意思決定のプロセスと役割分担」「より大規模なマーケティングの仕掛け」「見込客や既存顧客の体系的管理(SFA/CRM)」の考慮だと考えます。
小規模事業者はこれらを全く考えなくていいという意味ではありませんが、例えば個人や家族で運営している事業において「意思決定のプロセスと役割分担」と言ったところでそこまでの人数はいないので基本的には自分一人で考えて自分でやるしかありませんし、「大規模なマーケティング」や「SFA/CRM」を考える程の商圏や事業リソースが無ければ後回しにせざるをえません。
しかし企業の場合、組織的な事業運営と纏まった資本の投入、継続的事業発展による株主・顧客・従業員への還元などスケールが変わってきます。言い方を変えれば企業は「自分以外の社員の生活も掛かっているけど、自分だけで責任を取らなくてもいい」のに対して、個人事業主や小規模事業者は「全て自己責任だけど自分や家族の生活の面倒さえ見れれば良い」のです。企業の規模によって従業員数も個々の責任も違いますが、この関係性は概ね同じだと思います。
1人、あるいは1家族を養う事業と、10人、100人を養う事業は規模だけではなく仕組みややり方も違います。違いが発生する理由は計画的で確実な事業遂行と、効率的な利益の創出のためです。
人数が増えれば全員と意思疎通を図ることが困難になります。意思疎通を図るためには、共通言語としてのルール、手順、マニュアルや権限の明確化のための職位・職責などが必要です。何を目指して事業を行っているかという事業計画や、目指す姿を数値化した目標(KPI等)を明らかにすることで全員が同じ方向を向いて事業を行うことができます。各自が闇雲に好き勝手なことをしていては多くの社員を確実に養っていくことはできません。だから計画的で確実な事業遂行が必要なのです。
また、1人1人が個人事業主的な動きをするだけでは1+1+…と人数の足し算にしかなりませんが、分業や手法・手順の統一など組織的管理=マネージメントを行うことで人数の足し算以上の成果を産むことができます。人数の足し算以上の成果=利益を出さないと、再生産のための原資や株主・顧客・従業員への還元は困難であり、事業活動は継続できません。人数の足し算以上の成果を出して効率的に利益の創出しなければならないのです。
Webサイト運営、ひいてはマーケティング全般もこの定義は当てはまります。計画的で確実な事業遂行のために「意思決定のプロセスと役割分担」が必要になりますし、効率的な利益の創出のための手段として「大規模なマーケティング」や「SFA/CRM」が検討の対象になります。
マーケティングは広報宣伝部門だけの仕事?
「大規模なマーケティング」というとメディア広告などが思い浮かぶでしょう。企業においてメディアも含めた広報宣伝は専門の部門もしくは担当者、場合によっては役員が直接やっている場合もあると思います。「企業」と一括りにしましたが、中小企業は専門の部門や担当者がおらず、兼務もしくは各部門が独自にチラシを作ったりしている場合もあると思います。
宣伝は認知を上げ、興味を持ってもらうための施策です。その効果を直接受けるのは最前線の営業でしょう。自社及び自社の製品を広く知ってもらえることは営業活動にとって有利になります。だから営業が直接チラシを作ってポスティングしたりするのです。
しかし企業の宣伝を各自が好き勝手にやってしまうことにはデメリットもあります。お客さんに伝わるメッセージに一貫性が無くなり、企業や商品のイメージが定着しない可能性があるのです。ある人は価格を、別の人は性能を、また別の人は品質を強調するようなことを繰り返すと「結局御社の商品の強みは何ですか?」となりかねません。
「我が社の(あるいは我が社の商品の)強みはこれである」という柱を作り、全社員で共有することが必要であり、企業におけるブランディングの最初のステップだと言えます。広報も営業も事務職に至るまで、誰に聞いても同じ答えが返ってくる、その上で対外的なメッセージも同じ方向性で行うのです。自社の社員すらまともに答えられないイメージをお客さんに届けることはできません。
「意思決定のプロセスと役割分担」が確立して分業が進んでいても、マーケティングは広報宣伝部門だけが行う施策ではありません。企業として提供する価値を社員全員が共有して、CMもチラシもWebサイトもSNSも営業トークも家族や親戚縁者に話す時でさえも同じメッセージを発信できる状態になることが重要なのです。
こうした状態にするための取り組みを「インサイトブランディング」と呼びます。どんな大規模な組織であっても、末端の社員一人ひとりに至るまで全員が自社のマーケティングを担っているのです。
マーケティングを単なる宣伝で終わらせないCRM活用
ここからは本業のコーポレートSEとしてお話ししたいと思います。
デジタル革命とかDXという言葉が世に出て久しいですが、その本質を正しく理解できている人は一割にも満たないでしょう。社内決裁の電子化やWeb会議等のテレワークをDXだと持ち上げる風潮もありますが、勘違いする人が増えるのでやめるべきです。
DXとはデジタル技術を活用した事業の大転換であり、企業や組織そのものの仕組みを変えることです。何故デジタル技術を活用するかというと、これまででは考えられなくらいの生産性を叩きだすことができるからです。AIやIoTやビッグデータ等のデジタル技術は第四次産業革命と言われ、馬車が蒸気機関に変わり、蒸気機関がガソリンエンジンに変わったのと同じくらいの衝撃なのです。蒸気機関やエンジンを使うために御者はいりません。必要なのは技師・技術者です。デジタル技術を活用するためにも既存のスキルや組織体系・役割・事業内容では使いこなせません。デジタル技術が生産性を十二分に発揮できる形に転換しなければいけないのです。
マーケティングについてもDXの文脈から逃れることはできません。どこの誰だかわからない不特定多数を相手に宣伝する時代から、デジタル技術によってどこの誰かが識別できる人に最適な情報を提供する時代にシフトしているのです。
Webサイトやモバイルアプリで会員登録してもらい、再訪問や購入を促すキャンペーンを通知し、訪問履歴や購入履歴を分析して傾向を捉え、個々に最適な提案を届ける。そのための顧客情報の管理基盤がCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれる仕組みです。CRM自体はさして目新しい言葉ではありませんが、WebトラッキングやEC等デジタルで顧客行動がデータ化される中で改めて重要性が認識されるようになりました。
BtoCのビジネスでは顧客=エンドユーザーが不特定多数で管理不可能だったり、営業の頭の中で情報が閉じていました。BtoBの製造業やメーカーなども似たような状況だったのではないでしょうか。
しかしWebエコノミーの発展によってBtoCはもちろんBtoBメーカーもECで直接販売チャネルを持ったりエンドユーザーと繋がることができるようになりました。しかもこれまでのような管理不能な不特定多数ではなく、ユーザー1人1人の氏名や住所、メールアドレスや購買履歴まで識別可能な状態でデータ化することが可能になったのです。また会員制サイトのログイン機能やMA(Marketing Automation)によってサイト訪問履歴や閲覧ページ、販促メールの開封率などのトラッキングも可能になりました。
某電気店のように来店時にアプリをかざすだけでポイントがもらえるようにすれば来店履歴もわかるので、来店頻度が高い客向けのキャンペーンを集中的に行うことが可能です。大手ECサイトの「こちらの商品もお薦めです」も同様です。大企業ばかりがこうした施策を行っているわけではありませんし、BtoCだけが実施する施策でもありません。BtoBでも顧客の購買履歴から更新時期や商品の傾向を把握して他に先んじて提案を行うことができます。
こうした情報を管理・分析するためのデータの蓄積場所としてCRMが再び注目されているのです。人間が手で顧客情報を入力するような前近代的なやり方ではなく、他のアプリケーションから自動的にデータを連動させるAPIを活用したり、ログやトラッキングデータ等の大量の情報を識別キーに基づいて処理するDWH(DataWareHouse)的なやり方が必要です。
CRMを中心にした事業の変換は一朝一夕ではできません。データの入口をどのように整備するのか。そこにどのように誘客し、データを入力してもらうのか。入力されたデータの精度はどのように確保するのか。蓄積されたデータからどのようなアクションに繋げるのか。営業を有利にするための宣伝ではなく、蓄積したデータを分析して属性毎の傾向を元に顧客へアプローチするようなデータを中心に据えたセールスのシステム化とそれに伴う組織や人員の体制や役割の見直し・必要なスキルの補充と育成等、社内の大改造が必要です。
これらの取り組みの一端としてのオウンドメディア=Webサイトなのです。Webサイトは外部に向けたCRM施策の「入口」であり、同時にWeb集客の「着地点」でもあります。
図示すると以下のような感じです。
ここまでくると「Webサイトで集客」というピンポイントな話ではありません。デジタル時代に企業が行うべき「大規模なマーケティング」戦略はこのような形になっているのです。
CRMについてより詳しく知りたい方は、こちらの書籍をお薦めします。
デジタル革命に淘汰される前に変革を
DXとは上記のような施策を指した言葉です。電子ワークフローやWeb会議のような局所的な利便性の向上のことではありません。マーケティングに限らず、AIやIoTによる生産管理の自動化・効率化のような内向きの生産性向上も、デジタル技術を活用したこれまでにない新たなサービスの創出のような外向きの新規事業開拓も、事業そのもののやりかたを変えることがDXだと考えます。まかり間違っても基幹システム更新をクラウドもどきのシフトアンドリフトでやり過ごし、業務のやり方を旧来通りに温存することではありません。
今まで人力ではできなかった膨大な情報を瞬時に整理したり自動で識別することで事業効率を大幅に上げ、勘や経験ではなく効率的に収集・整理され数値化された定量データを根拠にした数学的経営を行うことで正確で予測可能な事業運営を行うことがDXなのです。「これまで勘と経験で勝負してきたんだ、そう簡単に覆されてたまるか!」という人は、後世からは明治時代に蒸気機関車と速さを競った人力車の俥夫のように映るかもしれません。人力車の俥夫は完全に消滅してはいませんが、運輸・交通のメインストリームからは外れて、観光地のアトラクションとしてわずかながら残っているだけです。
こういう言い方をすると私がデジタル信奉者で、それ以前の全てを否定しているように見えるかもしれません。しかし歴史を振り返るとそう考えざるを得ないのです。
18世紀にはじまった産業革命によって手工業は機械工業に取って代わられました。現在も手工業は残っていますが産業の中心ではありません。19世紀末からの第二次産業革命で主要なエネルギーは石炭から石油にシフトしました。蒸気機関はエンジンに置き換わり、人間の行動範囲は空や海中まで広がります。石炭が「黒いダイヤ」だったのは1世紀くらいだけでした。20世紀末からのIT革命(第三次産業革命)ではインターネットと携帯電話の普及により、固定電話や郵便、書籍・新聞・テレビまで前時代へ追いやられたのです。
そして現在、1人1台スマートフォンを持ち、電話やメールだけではなくビデオ通話・ネットショッピング・動画視聴・銀行振込・交通機関の乗車・店舗での支払いまで手元の端末1つで可能になりました。IT革命と騒がれた20年前にこの状況を誰が想像したでしょうか。
デジタル革命はIT革命の延長ではなく、さらに飛躍的な革新です。技術革新が起きるたびに今あるものは過去のものになります。それは時代が幾度も証明してきました。今回だけは変わらないなんてことはありません。好むと好まざるに関わらず変革はやってきます。そして変わらない者は淘汰されます。
パソコンがオフィスに普及しはじめて20年以上がたちますが、未だに「パソコンは苦手」という人が大勢います。この20年間どのように仕事をしてきたのでしょうか。自分の仕事道具もろくに使いこなせない人材を長らく放置し続けてきたことが、日本という国の生産性が低下させた一因ではないでしょうか。
DXは失われた生産性を取り戻す最後のチャンスです。淘汰される前に変革を達成しなければいけません。「そんな壮大な話は到底無理だ」と思うようであれば、どうぞ変化する時代の狭間に沈んでいってください。
本業なのでつい熱くなってしまってマーケティングというよりDXコンサルみたいな話になりましたが、要約するとパソコン音痴のおじさん達のIT介護と年代物の基幹システムのお守りが情シスの主な業務になっている会社は10年以内に滅亡するということです。
広島みたいな田舎にある中小企業のコーポレートSEごときがこれくらい考えなければいけない世の中です。事業の根幹を担う経営者や役員・管理職がIT音痴・デジタル音痴でまかり通っていては、10年どころか5年も持たないでしょう。意思決定層がIT音痴・デジタル音痴の企業にWebマーケティングはできません。Webサイトの活用など夢のまた夢です。
結論
- 企業における事業の本質は小規模事業者と同じ。違いは「意思決定のプロセスと役割分担」「より大規模なマーケティングの仕掛け」「見込客や既存顧客の体系的管理(SFA/CRM)」の考慮と、「計画的で確実な事業遂行」「効率的な利益の創出」の実現にある。
- マーケティングは広報宣伝部門だけが行う施策ではない。企業として提供する価値=ブランドを社員全員が共有して、Webサイトで発信する情報もその文脈に沿うものでなければならない。
- マーケティングにもDXの波が訪れている。購買履歴やトラッキングデータを活用して顧客の行動を分析するためにはCRMを軸にしたマーケティング戦略と事業変革が必要。
- デジタル革命は好むと好まざるに関わらず時代を変える。意思決定層がIT音痴・デジタル音痴の企業にWebマーケティングは不可能。
【業種別にみるWebサイトで集客するべき必然性】記事一覧
その1 | Webアフィリエイトで稼ぐ(副業、アフィリエイター) |
---|
その2 | Webサイトで来店してもらう【サービス提供型】 |
---|
その3 | Webサイトで問い合わせを受ける【スキル提供型】 |
---|
その4 | Webサイトで製品を販売する【プロダクト販売型】 |
---|
その5 | 独占業務型のWebサイトの注意点 |
---|
その6 | 企業のWebサイト運営で考えるべきこと★本記事 |
---|