「何故Webサイトを作るのか?」の具体例を考える「業種別にみるWebサイトで集客するべき必然性」の第4回、今回は食品や衣類・雑貨など物販を行う【プロダクト販売型】の業種について、Webサイトで集客する必然性を考えていきたいと思います。
この記事を含む「Webマーケティング入門」が対象にしているのは主に個人事業主や零細企業などの小規模事業者です。個人事業主といっても業種・業態は様々なので、ここでは大きく4つに分類します。
分類 | 定義 | 事例 |
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サービス提供型 | 提供しているのは「サービス」や「体験」で、店舗に来店してもらう必要がある業種。 | 美容室・理容室、整体・マッサージ、旅館・民宿、飲食店(通販不可) |
スキル提供型 | 提供しているのは「専門的な技術」で、店舗は無いが打ち合わせ等を通じて納品物を作り上げる業種。 | カメラマン、デザイナー、コンサルタント、エンジニア、ライター |
プロダクト販売型 | 提供しているのは具体的な「製品」で、店舗以外でも通販などで届けることができる業種。 | 飲食店・食品販売(通販可)、アクセサリー・雑貨、ソフトウェア・Webサービス販売 |
独占業務型 | 基本的にはサービス提供型だが、専門性が高く資格が必要なため参入障壁があり同業内のみでの集客争いになる業種。 | 士業(弁護士、税理士、会計士、行政書士)、医師 |
あなたが企業に所属しており、あなたの意思だけではなく組織の意向としてWebサイトを作成しようとしている場合は、以下の記事を読んでいただくことをお勧めします。
最終目的もWebの目的も「販売」
プロダクト販売型の業種が求めることはシンプルに製品が売れること=販売です。Web上だろうが店舗だろうが方法は問わず、とにかく商品が売れてくれることが最大の目的です。
EC(Electronic Commerce:電子商取引。一昔前はe-コマースなどとも言いました)の浸透によって、Web上で決済が完結する取引も増えました。Web通販に留まらず、UberEatsなどの宅配サービスもこのカテゴリーに入ります。ECの発達によりこれまで自前の店舗での販売や小売店や仲買業者に卸していた製品を自前で販売できるようになるなど間口が広がりました。
製品の製造・販売を行うプロダクト販売型の事業者にとって、Webは大きな商機になりうるマーケットなのです。
Webを活用するのとWebサイトを作成するのは違う
ここまでだけなら「プロダクト販売型の事業者はWebサイトで集客(販売)する必然性が高いから今すぐはじめましょう!」という結論になりそうですが、ここまでの記事を読んでいただいている方ならわかると思いますが当然そうはなりません。
ここで改めて「Web」と「Webサイト」という言葉を明確に切り分けておきます。
「Web」とはインターネットと同意語であり、Webを通じてアクセスできるサービス全般を「Webサービス」と定義します。自身が直接運営していなくても、他者のサービスを利用してWebで情報を発信することはできます。例えばSNSや口コミサイト、楽天やAmazonのようなECモールやメルカリのようなフリマアプリ、これらは全てWebサービスです。
「Webマーケティング入門」における「Webサイト」とは、所謂自前のホームページのことです。制作を自力でやるか外注するかはともかく、自分で運営して情報を発信するWebページを指します。「Webサイト」も「Webサービス」の一種ということになります。
プロダクト販売型の事業者は、他のタイプの事業者よりもWebの効果を得やすいですが、利用するツールがWebサイトである必要性はむしろ他のタイプの事業者よりも低いと言っていいでしょう。
お客さんはどうやってWebで物を買うか
上記はWeb上での購買決定のプロセスについて電通が提唱した「AISAS」というモデルです。
例えばあなたが知人からおもしろい本を教えてもらったとします。あなたはそれを買いたいと思いますが、あいにく近くに書店も無いし行く暇もありません。しかもかなり前に発売された本なので書店に並んでいるかどうかもわかりません。なのであなたはWebでその本を買おうと思って検索することにしました。
さて、あなたはどこで検索するでしょうか。
Amazonでしょうか、楽天でしょうか、Yahoo!!ショッピングでしょうか。
Googleの公式ブログでは「何かを購入するために検索するとき、アメリカ人の約60パーセントはAmazonから始める」と言っています。
あくまでGoogleの主張なのでどこまで正確な数値なのかわかりませんし、日本の場合は割合も変わるかも知れません。しかし「Webで本を買う」という発想に至る人の多くがAmazonや楽天を選択することは想像に難くありません。紙の書籍ではなくKindleや楽天Koboなどの電子書籍サービスを利用する人もいるでしょう。
何が言いたいかというと、Webで物を買う場合、多くの消費者は製造・販売事業者のWebサイトではなく、使い慣れたECモールやサービスを利用するということです。
これはBtoC(一般消費者向け)の製品に限りません。BtoB(企業向け)の場合でもアスクルやモノタロウなど有力なサービスがあります。2020年のネット通販売上高ランキングにおいて1位はAmazonですが、2位はアスクル、3位はモノタロウ、4位は大塚商会のたのめーると2~4位はBtoBのオフィスサプライが独占しています。
一般消費者向けの製品を小売店や仲買業者に卸すようなBtoBでもNETSEA(旧楽天B2B)、TopSeller、ETONETなどがあります。
個別の事業者のWebサイトを1つ1つ見て回って比較するより、最初から多数の事業者をまとめて比較・検討できるECモールのほうが、利用する側にとってメリットが大きいのです。
もちろんこれらのECモールには出店料や手数料がかかります。Amazonの大口出品プランは月額4,900円に販売手数料が8%~15%、楽天市場の3ヶ月契約のライトプランで月額39,800円(3ヶ月分まとめ払いなので一括で119,800円)に販売手数料が月間売上高の3.5~5.5%となっています(いずれも2020/12/1時点)。この手数料が多くの事業者が二の足を踏む原因でしょう。通常の販売と同じ利益を出そうとすれば、通常の販売価格にさらに金額を上乗せして、さらに送料まで負担してもらうことになるため価格が高騰して他社と勝負ができなくなります。かといって価格を下げれば利益を圧迫してしまうので、売れば売るだけ損を出しかねません。
それでもお客さんの選択肢に入らなくては売れないので出店料や手数料を支払ってもECモールを選択する場合が多いのがプロダクト販売型のECの現状です。
お客さんに商品を知ってもらわなければいけない
これだけだと「やっぱりWebで物販とか辞めておこう」となるかもしれません。しかしECモールに辿り着くのはAISASモデルの「検索する」に辿り着いたお客さんだけです。
その前の商品を知り、興味を持ってもらうところで他の商品を排除できれば過当競争を抜け出せるかもしれません。
上の図はマーケティングにおける消費者行動モデルを表した「AIDAの法則」と、購買プロセスにおける顧客の推移を表した「パーチェスファネル」という概念を組み合わせたものです。
AIDAの法則は1900年代にアメリカで提唱されたマーケティングモデルで、現在に至るまで多くのマーケティングモデルの基礎になっています。先ほどのAISASもAIDAを元にWebマーケティング用にアレンジされたものです。
商品を知り、興味を持ち、買いたいと思って購入に至るまでに見込み客(購入の可能性のあるお客さん)は減っていきます。これを表しているのが「パーチェスファネル」です。AISASの図では割愛しましたが、AISASでも同様のことが発生します。
この図とAISASを組み合わせた時に2つのことが言えます。1つは「フェーズ(段階)が進むごとに見込み客の数は減少するのだから、商品を知っている(認知している)人の数をできるだけ増やさなければいけない」です。もう1つは「『検索する』の時点で商品を決め打ち(「指名検索」と言う)してもらえればSearch→Actionでの見込み客の残留率(「歩留まり」と言う)は上がる」です。
例えば「もみじ饅頭」と検索すると色んなメーカーのもみじ饅頭がヒットしますが、「もみじ饅頭 にしき堂」「もみじ饅頭 藤い屋」と検索されるとピンポイントでそのメーカーの商品に辿り着きます。単純に「もみじ饅頭」だけではなく、メーカー名まで併せて検索してもらえるような認知の上げ方をすることが重要ということになります。
※広島在住なので例えに広島関係の例えがしばしば出てきます。
AIDAやAISASの話は度々出てくることになるので、別記事に纏めました。
「私の扱っている商品なんか、もみじ饅頭みたいにメジャーじゃないし…」と思われるかもしれませんが、商品を知ってもらう=認知を上げることこそWebの力の真骨頂です。SNSや口コミサイトの活用、Web広告の出稿など、これまでの広告・宣伝手法と比較しても安価で手軽に使えるツールがたくさんあります。この辺は別記事に詳しくまとめてあります。
商品を販売するためにコストがかかるのはあたりまえ
指名検索で検索してもらった結果として表示される場所が必要ですが、そのためショッピングカートサービスを利用するという選択肢があります。ショッピングカートサービスとはECカート付きのWebページを簡単に作成することができるサービスで、代表的なものにBASE、STORES.jp、カラーミーショップなどがあります。ECに必要な部品やレイアウトが準備されていて、専門的な技術が無くても見栄えのするECサイトを作ることができます。
こうしたサービスも販売手数料が必要にはなりますが、楽天やAmazonのように出店料がかからなかったり、販売手数料も大手ECモールと比較するとやや低く5%程度です。また自分の事業に合わせてレイアウトなどを変更でき、他店と混在するのでは無く自分専用のスペースとして使える点も強みです。
「結局手数料取られるのか。だったらAmazonや楽天と一緒じゃないか。」と思った方、正解です。だから結局多くの事業者はECモールを選択するのです。
指名検索されるくらいに認知が上がればECモールだろうがショッピングカートサービスだろうが自前のWebサイトだろうがお客さんはあなたの商品のページを訪れて商品を購入します。しかし多くの場合そこまでの認知は得られていません。
ECモールを見に来る人は「興味」「検索」までフェーズが進んでいる購入確度の高い見込み客である可能性が高く、事前にあなたの商品を知らなくても興味のあるカテゴリの商品であれば買ってくれるかもしれません。食品を買いに行ったスーパーで「そういえば時計の電池が切れてたから買っておこう」とついでに電池を買うような感覚で、認知が無くても購入に至る可能性があるのがECモールの強みなのです。
ショッピングカートサービスや自前のWebサイトに訪問してもらうためには認知があることが大前提です。はじめから購買意欲のある見込み客がいるところに出店できるECモールと、自分で認知を高めてお客さんを呼んでこなければいけないのがショッピングカートサービスや自前のWebサイトのどちらが有利か言うまでもありません。ECモールの利用料が高いのは、簡単に言えば店舗の立地がいいからなのです。Web上でも実店舗でも同じで、立地が良ければ賃料は高くなります。
ECモール出店に掛かる費用は実店舗の出店費用と比較すべきです。場所を間借りして店を構えるわけですからWebでも実店舗でもお金がかからないわけがありません。しかしイオンモールやアリオやゆめタウンのようなショッピングモールに出店することを考えれば、ECモールへの出店は圧倒的に安上りです。賃料が安いだけではなく、接客や在庫の棚卸、補充、陳列などする従業員を雇用する必要もありませんし、レジを叩かなくてもお客さん自身が自分で決済してくれます。情報のメンテナンスは必要ですが、四六時中人を張り付けておく必要はありません。しかも24時間365日営業できます。
ただしECモールにはあなたの同業者も同じ条件で多数軒を連ねています。店舗の立地やメリットどころか店のレイアウト(ページのデザイン)まで全く同じで、違いは陳列できる商品と価格だけです。競合に打ち勝つだけの価値がある商品でなければ誰も購入してくれないのは実店舗だろうとWebだろうと同じです。多くの場合ここで価値=価格に偏っていって過当競争になっていってしまうのです。
ECモールが大型ショッピングモールだとすれば、ショッピングカートサービスや自前のWebサイトは田舎の国道沿いのドライブインや人里離れた山奥の蕎麦屋みたいなものです。
賃料は安いですが立地は圧倒的に不利です。しかし長距離トラックドライバーの間で「あそこのドライブイン、飯は旨いし量も多いし安いから、絶対行った方がいいぞ!」のような口コミが広がったり、「蕎麦好きにお薦めしたい知る人ぞ知る名店!」のようにメディアで取り上げられたりすれば立地の不利を克服でき、且つ経費が安いので利益も大きくなります。「口コミが広がる」「メディアで取り上げられる」=認知が上がることです。
そんな立地の店が認知が上がるのをただ待っているだけでは潰れてしまうので、自ら情報を発信して認知を高めなければいけません。認知を高めることができれば、競合と軒を並べるショッピングモールより、同じカテゴリーの他の商品を目にすることなく購入まで誘導できる自前の店舗のほうが有利でしょう。周りにコンビニも牛丼屋も無い田んぼのど真ん中のドライブインなら途中で他の店に立ち寄ってしまう可能性は少ないですが、ショッピングモールのフードコートだと他の店を見て「やっぱり今日はうどんにしようかな」と心変わりされてしまうかもしれません。
認知を高めるためには多かれ少なかれコストが発生します。実店舗でチラシを印刷して近隣商圏の家にポスティングするのだってタダではありません。
「SNSでバズればタダで知名度が上げられる!」と思っている方、起こるか起こらないかわからないバズを期待してひたすら投稿し続けますか?今現在バズっていないあなたがどうやってバズれますか?バズが発生できるのはいつのことになりますか?
尚、あなたがインフルエンサーと呼ばれるくらいのスキルを持っていて「バズるとか楽勝っしょ」くらいのレベルであれば、わざわざこんな記事を読むことを想定していないので読了いただくことをお勧めします。
「確実にバズを発生させられますよ!」みたいなSNSコンサルタントもいますが、コンサルですからお金がかかります(「バズらせ方/フォロワーの増やし方教えます!」のようなNoteの有料記事も同義)。しかもバズったところで炎上してマイナスプロモーションになれば元も子もありません。炎上マーケティングと呼ばれる手法もありますが、芸能人やメディア向けならともかく堅気の商売にはお勧めしません。やりたければ止めはしませんが、そもそもバズれない人は十中八九炎上もできません。
起こるか起こらないかわからないものに一か八かで掛け続けるのはビジネスとして正しい姿ではありません。確実に積み上げて刈り取って再生産するまっとうなプロセスを歩むためには、CMでも広告でもチラシでも看板でもSNSでも掛けられる範囲の中で認知を上げる施策に正しくコストをかけなければいけません。コストとは費用のことだけではなく、例えばSNSで情報を発信・拡散させるノウハウを身に着けるために書籍を読んだり事例を調べたり、実際に実践しながらトライアンドエラーを繰り返すために費やす時間と労力もコストなのです。
ECモールに出店するのも、他のサービスを使って認知を上げて集客するのも、コストは絶対にかかります。実店舗にしてもWebにしても、新たなチャネルで商品を販売するためにコストがかかるのはあたりまえなのです。
自前のWebサイトでなければいけない必然性は低い
出来合いのデザインや機能を使わない独自のWebサイトを作り、そこにECカートを設置することが完全に無意味というわけではありません。しかし最終目的は「販売」です。特定の商品分野のキーワードでSEOランク1位を狙うためにWebサイトに多大な労力をかけることはあなたの本業ではないはずです。
売りたいものがソフトウェアやWebサービスなどデジタルデバイス上で利用するような商品でないのであれば、必ずWebで商品を売らなければいけないなんてことはありません。認知が向上すればWebを介さない販路にも効果は出ます。店舗への来店も期待できますし、業者へ卸す量も増えるかもしれません。
店舗を持たずWeb専業で商品を販売する場合であっても、自前のWebサイトを作る必要がないのはここまで述べてきた通りです。メルカリに出品してSNSで情報発信するだけでもWebを活用したプロダクト販売は成立します。前述でSNSでバズれば云々をばっさり切り捨てましたが、SNSが認知の向上に効果が無いと言いたいのではなく、適切な運用ノウハウも知らないのに「無料でできる」に飛びついてはいけないと警鐘を鳴らしたかっただけです。ちなみにメルカリも手数料は売り上げの10%(2020/12/1時点)で、ちゃんとコストもかかります。
特に小規模事業者は商品や事業者自身の認知を上げることとよい製品を作ることだけに集中すべきです。うっかりWebサイトのSEO対策とかいう沼にはまって本業が疎かにならないようにしてください。
認知を上げるために活用できるWebツールもたくさんありますし、Webでなくても宣伝はできます。そして自前のWebサイトは認知を上げるツールではありません。詳しくはサービス提供型の記事を参照してください。
プロダクト販売型の事業はWeb上で決済まで辿り着けるので、Webとの親和性は高い業態です。だからこそECモールやショッピングカートサービス等多数のサービスが提供されており、一から自前でWebサイトや販売の仕組みを作る時間と労力をショートカットできるのです。好き好んで茨の道を歩まぬよう祈っています。
結論
- Webで物を買う時、多くの人はAmazonや楽天を利用する。製造・販売元のWebサイトは見ない。
- 自前のサイトを作る場合もショッピングカートサービスがあり、一から自前でWebサイトを作らなくても良い。
- どちらを選択しても良いが、商品を販売するためには必ずコストがかかる。
- 商品や事業者自身の認知を上げることとよい製品を作ることだけに集中するべき。
- ECモールやショッピングカートサービスはECをはじめるための時間と労力をショートカットするために提供されており、自前のWebサイトよりそちらを選択することがお薦め。
【業種別にみるWebサイトで集客するべき必然性】記事一覧
その1 | Webアフィリエイトで稼ぐ(副業、アフィリエイター) |
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その2 | Webサイトで来店してもらう【サービス提供型】 |
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その3 | Webサイトで問い合わせを受ける【スキル提供型】 |
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その4 | Webサイトで製品を販売する【プロダクト販売型】★本記事 |
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その5 | 独占業務型のWebサイトの注意点 |
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その6 | 企業のWebサイト運営で考えるべきこと |
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